面会に行くたびに、父は眠っていました。
声をかけても目が合わない。手を握っても、反応があるのかないのかもわからない。帰り道はいつも、「今日も伝わらなかった」という気持ちでいっぱいでした。
それが変わったのは、関わり方を変えてからです。父の手がわずかに動く。瞼がぴくっとする。たったそれだけのことが、「ちゃんと届いてるんだ」という確信に変わりました。
この記事では、せん妄の父への声かけで私が変えたこと、病室に持ち込んでよかったものを書きます。今まさに、反応のない家族との面会がつらい方に届いたら嬉しいです。
※せん妄がどんな状態か、家族がやりがちなNG面会については前回の記事にまとめています。
声かけを変えた|短く、ゆっくり、毎日同じ言葉で
初めて面会した日のことは、今も忘れられません。あんなに元気だった父が寝たきりになり、話もできず、目も合わない。信じられない気持ちと、今できることを全力でやろうという気持ちでいっぱいでした。
その夜、家に帰ってせん妄について調べ、翌日から声かけを変えました。
「お父さん、来たよ」
「今、お昼だよ」
「ここは病院だよ」
これだけです。長い話はしません。毎日、同じ言葉を、短く、ゆっくり。
もうひとつ意識したのは話しかける位置です。初日、私は顔を覗き込んで話しかけていましたが、正面から覗き込むのは脳に負担がかかるそうです。視界に入るくらいの位置から、静かに声をかけるようにしました。
「今はお昼」「ここは病院」という言葉には意味があります。せん妄は時間や場所の感覚が混乱している状態なので、その感覚を取り戻す手がかりを、声で毎日渡してあげるイメージです。
病室に持ち込んでよかったもの
声だけでなく、目から入る手がかりも作れないかと調べて、次の3つを用意しました。
- 大きめの時計:今が昼か夜かわかるだけで混乱が減る
- 家族の写真:1〜2枚、人数が少ないもの。多すぎると逆に混乱することがある
- カレンダー:日にちがわかると不安が減る
わが家では、母が以前父に買った日めくりカレンダーに孫の写真を貼って、病室のテーブルに置きました。殺風景だった部屋に色が入って、面会に行くたびに少し明るい気持ちになれたのは、父より私たちのほうだったかもしれません。
小さな反応が返ってくるようになった
父は言葉がはっきり話せず、会話はほぼできない状態が続いていました。眠っているか、少し目を開けているか。表情もほとんど変わりません。
それでも、母と私が面会に行くと、「嬉しそうにしてるな」と感じたり、何かを話そうとすることもありました。カレンダーや写真を見せながら孫の話をしたり、父が興味のある話題を出したり、父の反応があると母も嬉しいようで帰りの車も明るい雰囲気でした。
そして、父が眠りから醒めないような反応だったときは、「大丈夫かな」と不安な気持ちにもなりました。でも手が少し動く、瞼が動くだけでも反応してくれているんだということを知り、父も頑張っているんだなと救われました。
「おいしくない」|父が笑わせてくれた日
帰省して3日目の面会でした。この日は父が目を覚ましていて、意識もいつもよりはっきりしていました。母が父の足をマッサージし、私はいつものように「お父さん、来たよ」「今お昼だよ」と話しかけます。
少しずつ会話が成り立ってきた父に、ふと聞いてみました。「お父さん、ご飯美味しい?」
父はひと言。
「おいしくない」
流動食だから仕方ない。でも、あまりにはっきり答えるので、母と顔を見合わせて笑ってしまいました。目も合わなかった父の、まさかのひと言でした。
反応がなくても、届いています
関わり方を知ってから、面会は「つらい時間」から「小さな変化を見つける時間」に変わりました。看護師さんから「面会の時は意識がしっかりしていますよ」と言われたときは、毎日通う意味があるんだと思えました。
目が合わなくても、言葉が返ってこなくても、届いています。
もし今、同じ状況で面会がつらい方がいたら、短い声かけを毎日同じように繰り返してみてください。昨日はなかった小さな反応に気づく日が、きっと来ます。


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